dechi

fictions

018.仲間たち

「もう、話はじめちゃう?」と木村が言ったが、三好が来ていない。角野は目の前のシーザーサラダに夢中だ。「そんなに好きなのか野菜が」「わからん」口からレタスがはみ出ている。
 

017.梨

 玄関にあった梨を掴んで、スーツのまま流しに立つ。
 
 プラスチックのまな板を水洗いして、梨も水で洗って、その上に置く。
お椀を用意して、包丁を取り出す。力を込めて、梨を縦に真っ二つにする。
 

015.時間の皮を

外は暗くなってきて、私は部屋の電気を付けた。
もう一度椅子に座り直して、息を吸って、吐いて、それから、ゆっくりと線を書き足した。
 
 
鉛筆の先を目で追うことで、一瞬前の位置から、まっすぐ下に伸ばしていくこと。
子供用の安物だけど、ほどよく粗くて、肌触りもどこか懐かしい落書き帳を、少しずつ、縦縞模様で埋めていく。
 

014.雨にも歩けば

 折りたたみの傘でも、無いよりはマシだった。古本は買わないで正解か。汚れたりすると良くない。
 
 
 ちょみは穏やかに歩いていて、時折振り向いたりするのがリード越しにわかる。もうお互いにいい歳なので、カミナリが近かったり、美人が雨に濡れつつ走っていたりしても、まあ、はしゃぐということが無くなった。
 

013.ライデイン

 回送のバスが横切って、信号は青になる。車通りは少なくて、やけにヒールの音が響く。
 
 
 達樹は徹夜明けなのだろう、メッセージが既読にならない。夕方に顔を出そうか、でも一度事務所を出ると戻るのが億劫で悩む。
 

012.朝の徒競走

 炊飯器から蒸気の音が止んだ。炊きあがりを知らせる電子音。「きらきらひかる、おそらのほしよ」のメロディで、私の一日が始まる。トイレ、手を洗い、テレビを付ける。

 

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010. 今度恋に落ちるときは

 禁煙席は通りに面した窓側で、いつも奥から3番目の席に案内される。
 
 ご注文が決まりましたら、そちらのボタンでお呼びください。と言って店員の女性は厨房へ戻り、僕らとメニューと、水2つがテーブルに残った。
 

009.大通りの音楽

 結局、今日もワニが来るまで3人で騒いでて、外に出るともう真っ暗で、雲が低くて街の明かりでちょっとオレンジ色になってた。

 
「難しすぎるんだよね、曲が」「ポン子めっちゃ推してたし」「ナメてたすみません」「ほんとよ」チャリをこぎ出して、さっきの話の続きが聞きたくなった。